シードンどうぶつ記

アタマは老年! ココロは中年! キブンは少年!(SSブログから引っ越して来ました)

老人とコロナの海(4)〜公共図書館の対応

《リード》
老人はいつも利用している図書館が急に休みになったことを知って、愕然とした。
「コロナの海」で右腕を失ったかのようだった。
 ……(考え直した老人、図書館比較表も含め、初稿を大幅改稿。特に後半。—3/4 14時頃)
 書籍消毒機.jpg
        ——書籍消毒機
 
《本文》

 検閲によって不適切とされた創作物が次々消されていく中、弾圧に抗して図書館が立ち上がる、という物語があった。*

 そこで抵抗のバイブルとされたのは「図書館の自由に関する宣言」だった。図書館本来の役割と本の自由を守ろうと、図書館は自主防衛の道へと進んで行ったのであった。

 

 もちろんそれは「物語」。

 だが、図書館は私たちの自由のために守らなければならない不可欠の拠点であることを示している点に、この物語の真実があった。

 どの図書館でも掲げられ、忘れられることのないその有名な宣言「図書館の自由に関する宣言」をご存知だろうか。

 私たちの知る権利、表現の自由を守るために図書館利用の自由を保障した内容になっている。**

 

 ところが今、その大切なはずの「図書館利用の自由」は大幅に制限されようとしている。

 

 「世も末……」老人は呟いた。

 

 今回の新型コロナウイルスの流行に関わって、その感染防止のためと称して実質的閉鎖に至っていると思われる図書館が出てきたのである。

 

 「勘違いをしているのだ」——老人はまた呟く。

 

 図書館は、遊園地やスポーツジムとは違う。図書館職員諸君はそれをわかっているのだろうか?

 実質一ヶ月近くもの利用制限を宣した図書館がいくつもある。むしろそういうところの方が多い!?

 

 民主主義の生命を握っている重要機関。簡単に値切るわけにはいかないはずだ。

 

 「返却と、予約した資料の貸出は行なっています」——彼らは、「宣言」の「すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する」を軽く見ているのである。

 ここは刑務所ではない。いちいち予約しなくてはそこにある資料を手にできないなど、笑止千万。関連資料を書架で自分で探すのは図書館の自由の必須要素。

 

 図書館職員に派遣社員が増えたからだろうか?

 そもそも図書館で話し合いがなされていないのではないか?「上意下達」で決まってしまって……

 

 地元図書館に問い合わせた。

 「図書館で話し合って決めている」との説明だった。(それは本当か?)――事実だとして、「それなら仕方ない」と納得してしまっていいものか……

 

 老人は、利用したことのある公共図書館の対応を調べてみた。

 幸い、まだ「戦っている同志」もいる。だが、戦う前に「自らコロナの海に白旗を掲げた同志」「逃げ腰の同志」のなんと多いことか……

 

公共図書館のコロナ対応

※全?…全ての館か 架…書架立入 席…席利用 OP…検索利用 予…予約本受取

        全? 架 席 OP  予 行事  期間

相模原市図書館  全   ×  ×   ×     ×  × 3月2日~16日

町田市 図書館    全   ×  ×   ×    ○  × 3月2日~26日

千代田区図書館 大半   ×  ×   ×  ○    × 3月2日~26日

調布市 図書館  全   ×  ×   ×  ○    ×   3月2日~15日

中野区 図書館  全   ×  ×   ×  ○    × 3月2日~15日

府中市 図書館  全   ×  ×   ×  ○    × 3月5日~15日

横浜市 図書館  全   ×  ×   ×  ○    × 3月2日~16日

文京区 図書館  全   ×  ×   ×  ○    × 3月2日~15日

 

新宿区 図書館    全   ×  ×  ○    ○  × 3月2日~31日

品川区 図書館   一部   ×  ×   ×  ○  × 2月28日~3月末

 

川崎市 図書館  席無し・一部閲覧制限   3月2日~15日

稲城市 図書館  席間拡大・換気・消毒等  

目黒区 図書館  席数削減・換気・消毒 

世田谷区図書館  体調確認の上の来館     

       

 この表を睨んで唸っていた老人、ふと先日読んだ本のことを思い出した。

 英国在住の保育士、ブレイディみかこ著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社 2019)である。その中にこんな言葉があった。

 

 「他人の靴を履いてみる(stand in someone’s shoes)」

 

 英国ブライトンの公立中学校に通う息子が「エンパシーとは何か?」というテスト問題に「誰かの靴を履いてみること」と書いた訳を母親(筆者)から尋ねられた時、学校の先生が「ライフスキル」の授業で「混乱を乗り越えていくには、違う立場、違う意見の人の気持ちを想像してみることが大事だ」と言っていたのを思い出して書いた——そう息子は説明した。「エンパシー」は「シンパシー」と似ているが、「シンパシー」は感情的状態なのに対して、「エンパシー」の方は知的作業なのだとの説明もあった。

 

 自分が公共図書館スタッフで、どうすべきか相談されたとしたらどうだろう?

 老人は、魔法使いの杖を支えに、先週末の公共図書館員の靴を履いてみることにした。

 

 ――全面閉鎖ですね、感染怖いし。

 ――いや、それは安易すぎないか? 第一、ジムほどは混雑してもいないだろう。

 ――書架の中で感染者にクシャミされたら、ブッカーにはウイルスが何日も残るんじゃないですか? そんなの拭ききれませんよ。感染の恐れがある本を貸し出すのはマズくないですか?

 ――貸し出す前にアルコールで拭けばいいんじゃないかな?

 ――アルコール備蓄そんなにありましたっけ? それに予算も心もとないしなあ。最近は図書館予算は削減に次ぐ削減ですからね。

 ――書籍消毒機の予算申請、却下続きだからね。

 ――1台100万円近くするんだからとてもとても……。

 ――1枚10円もしないマスクを持ってない職員もいるので、支給しなくちゃならないのだが、それすら予備がもう少ない。

 ――座席が埋まっていることは結構あって、皆さん長時間じっとしていますから、感染の危険、ありますよね。

 ――椅子を一部片付けて、間隔を広げるという手はあるけどね。それにコンサート会場や飲み屋とは違って「おしゃべりナシ」が原則の場所だからね。

 ――その椅子をしまっておくスペースが問題じゃないか。

 ――それくらいなら書庫におけるでしょ。

 ――付属の会議室はどうしますか?

 ――それは、別に考えるとして、まずは図書館の方だね。

 ――「図書館がクラスター感染の場所になっていた!」なんていう報道を想像すると、ゾッとしますね。感染拡大の場所にはしたくないなあ。

 ――インフルエンザについては、もうそうなってますよね。誰も騒がないけど。

 ――確かに、定期テストシーズンにはインフルエンザに罹りやすい若者がたくさん押し寄せるが、今は学校が閉鎖だから、テストもないし、とりあえずインフルエンザはいいだろう。

 ――でも、新型コロナだけ特別扱いって、どういう意味なんですか?

 ――正体が不明だからだろう。今回は幸い致死率はそう高くないようだが、将来もっと危険な感染症が流行るかもしれない。そういう時に備える意味もあるのだから、「大丈夫、大丈夫」と気易く言ってしまうのはどうかと思うなあ。

 ――高齢者が特に危険とわかっているのだから、高齢者に来館を遠慮してもらうという手はどうですかね?

 ――差別的な対応は図書館に馴染まない。

 ――「図書館の自由に関する宣言」ですね。

 ――でも、「宣言」に従うなら、私たちは命を懸けてでも市民の図書館利用を守る義務があることになりませんか?

 ――だが、非常事態だからなあ。

 ――でも法的には曖昧ですよね。その非常事態ってヤツは……。制限する根拠も実は怪しい。憲法改正を睨んで、風評拡大を政府が仕組んでいるという説さえありますからね。

 ――図書館が風評に手を貸すのはマズいよなあ。

 ――最低限予約本の貸出しはできますよね。あと、予約ができる条件を整えること。パソコンやスマホのない人のために、検索機を使えるようにしましょう。自由な閲覧が理想ではありますが、書架への立入りは時間制限を呼びかけて、手指の消毒とマスク着用を義務付ける。長時間の滞在を避けてもらい、新鮮な空気を入れるため、プールみたいに入れ替え制にする……混んでいる館ではそれも難しいかも知れませね。中央館だけは書架内立入り禁止かな? 

 ――制限期間はできるだけ短くしたいですね。1週間ではダメですかね。専門家会議の結論として「1、2週間」と言ったのは、確か2月24日でしたから、そこから2週間とすると、3月9日(月)。来週からだとちょうど1週間です。

 

 「なるほど……」

 老人は、つぶやいた。

 

 立地の違いもあって、混んでいる図書館とそうでもない図書館がある。他にも館によって微妙な差もあるだろうから、対応には多少差があっても仕方ないかもしれない。

 すぐ近くで多くの感染者が出たような地域の図書館は、全面閉鎖に近い対応も仕方ないのだろう。だが、今回のレベルの感染症なら、最低限予約本の貸出はできるだろうな。

 「図書館の自由」確保が館員たちに強く意識された上で決めているのなら、彼らの判断に従うのもやむをえないかもしれない……だが、それにしても過剰反応と思えるところがこんなにあるとは!

 大幅制限をかけている図書館では検索機の利用も認めていないところが多いが、それは検索機の設置場所と関係あるのかもしれない。そこに長蛇の列というのも困るか? ……でもまあ、腰が引けてるよな。やってみてから工夫する手もあるだろうに。情報弱者の権利も守るというのが「宣言」の趣旨なのだから。

 

 大事なのは、きちんと議論をした上で決めているかどうか、だ。

 ほとんど同じ対応のところが過半数も並んでいるのは気がかりだ。おそらくは各図書館というより、自治体の判断なのだろうが、こういう「横並び」だと、安倍くんのパフォーマンス(全学校の一斉休校要請……手続きも科学的根拠も怪しい)への「すり寄り」の観が色濃い。――つまり「忖度」が疑われるということだな。

 

 各公共図書館には、ぜひ自主的自律的判断を求めたい。

 そして、早期の制限解除・制限緩和を検討してほしい。それに、もっと各館独自の工夫があって良いはず。

 自分で用心して行かないのと、行っても入れないのとでは意味が全く違う。

 

 あの本の英国の中学生なら、なんと思うだろう? 

 そうじゃ、ワシのトレッキグ・シューズを彼らにも履いてもらうことにするか……。

* 有川浩図書館戦争』(KADOKAWA 2006

** 下に掲げる

 

(以下、引用)

図書館の自由に関する宣言(1954  採 択  1979  改 訂)

図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。

1. 日本国憲法は主権が国民に存するとの原理にもとづいており、この国民主権の原理を維持し発展させるためには、国民ひとりひとりが思想・意見を自由に発表し交換すること、すなわち表現の自由の保障が不可欠である

知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する。知る自由は、また、思想・良心の自由をはじめとして、いっさいの基本的人権と密接にかかわり、それらの保障を実現するための基礎的な要件である。それは、憲法が示すように、国民の不断の努力によって保持されなければならない。

2. すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。

3. 図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである。

4. わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。

5. すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。外国人も、その権利は保障される。
6. ここに掲げる「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するためであって、すべての図書館に基本的に妥当するものである。